生活と歩む

デイデイ洋裁店「この世にひとつの出会いを」生活と歩むvol.3

2022年から新たに始まった「工芸の五月通年企画」。五月はもちろん、年間を通して皆様に生活を楽しむヒントをお届けできたらと、「クラフト」をキーワードに様々な企画を行っています。「生活と歩む」と題したこのウェブマガジンでは、作品やイベントの背景に漂うそれぞれの仕事や暮らしをちらりとご紹介。vol.3は昨年の企画デイデイのおひるね展からデイデイ洋裁店・中井亜沙子さんのインタビューです。

photo:yuki yokosawa

一枚一枚絵付けをして縫製した服や小物たち

デイデイ洋裁店は中井亜沙子さんによるお洋服屋さん。
ガーゼを主に使い、一枚一枚絵付けをした生地で洋服や、クッションカバー、ポーチなどの小物を作っている。

photo:yuki yokosawa

作品の背景を「深堀する」

中井さんは1985年生まれ、兵庫県尼崎市の出身。幼少期からものづくり、とくにお裁縫が趣味で「ちょこちょことちっちゃい物を縫うのが好き」だったという。

高校生くらいになって進路を考えた時に洋服に関係する学科に行きたいと思い、大学は家政学科に進学。
大学4年の時には「もっと服のことを深く掘りたい」と、就職はせずさらに服飾の専門学校に進学することに。
専門学校では総合科という、パターン、縫製、デザインに加え、歴史、染め、素材加工などを広く学べる学科に進んだ。

そのなかでもデザインの授業では、コンセプトがあって自分がどういうのを作りたいか、どういう人に向けて作りたいか、どういう生地を使うか、というのをロジカルに組み立てる、「考え方」を学ぶ。
1つの服を2、3カ月かけて作っていく中で、どういう生地を使うか、生地を選ぶためには何を決めないといけないかなど、骨組みづくりからしっかりとおこなっていった。
服の背景にあるコンセプトやテーマが、着る人、見る人に伝わるためにはどうしたらいいのか、「なぜそれを選んだのか」を先生から繰り返し問われる中で考え続けていく作業。

そういった「外には直接出さないけど、作品のベースになる部分を深堀して考える」プロセスは、今現在の作品作りや普段の生活にも根強く残っているようだ。

ピカソやマティスの絵が好き。色の塗り方の研究と共に、彼らが暮らしていた時代に何があったのかを「掘る」ようにしている。

30万円をにぎりしめ独立

その後大阪でアパレル会社に勤めたが、専門学校時代にやっていたような1着に時間をかけて丁寧に作り上げていくのとは対照的な、ひとつのデザインで200~300着作ったり、デザインを焼き直して制作したりすることなどに馴染めず、3年ほど働いてみたものの「反旗を翻すような気持ち」で、30万円をにぎりしめ東京に移住をした。
企業にはできない「どれだけ手でできるか」をやってやろうという、アンチテーゼ的な気持ちで独立した当時のことを、「若かったですね(笑)」と振り返る。

移住から3カ月後には初めての展示をおこない、それを皮切りに月に1、2回はグループ展や手づくり市などに出るために作品を作り続けた。バイト代はほとんど布代に消えていく日々。キャベツひとたまを半月かけて食べるなど「極貧時代」の始まりだ。

そんななか、展示に出る内に知り合った人からの紹介で引っ越したのが東京大空襲から逃れて残ったという100年の歴史がある長屋群。まるで村のような縁に助けられて、日々をサバイブした。今も使っている布団は、裏に住んでいたおばあちゃんがくれたものだ。
この長屋群が生地問屋の多い日暮里繊維街の近くにあったことも決め手のひとつ。当時知り合った問屋さんからは、今でもガーゼをおろしてもらっているという。

好きな絵画をまとえたらかわいい

デイデイ洋裁店は、元は『day un day』という屋号だった。ハレとケをあえて分けず日常でもちょっと面白いものを身にまとう、そんなイメージでつけたという。
「なかなか名前が浸透せず、みんなデイデイと呼ぶのでもうそれでいいかと(笑)わかりやすく『デイデイ洋裁店』に変えました」

当初はシルクスクリーンを繰り返し刷ることで柄をつくっていたが、目詰まりで使えなくなってしまったり、乾いた時のパキパキとした風合いが気になったり。描いたほうが速いし肌触りも良いのでは、というところから布用のペンで模様を描くようになった。
もともとあった「好きな絵画をまとえたら可愛いだろうな」という気持ちと「手描き」が結びつき、今のデイデイのスタイルにつながっていった。

ガーゼを使っているのは、まず「気持ちのいい素材」というのが大前提。赤ちゃんや子どもの服にガーゼが使われることが多いように、大人の服でも気持ちのいいリラックスできるような服があったらいいのにという思いからだ。そしてたくさんある白い生地の中で、描いた線の出方が一番好みだったのもガーゼだったという。

現在使っている染料は色鉛筆のようなかすれのニュアンスが気持ちよく、乾いた時に柔らかさも保たれる。

そして東京移住から4年ほど経った2018年ごろ、長野市善行寺のびんずる市に出展した帰りに松本に寄る機会があった。
野菜、水、が美味しく、空気も綺麗、東にも西にも行きやすい。そのころ読んでたパーマカルチャーや地産地消の本の影響もあってなんとなく田舎に住みたいという気持ちとも重なり、「ここで住んだら気持ちがよさそう」とピンときて移住を決めた。

松本の人たちがおのおの好きなことをやりながら暮らしているのも、当時住んでいた長屋群の雰囲気に少し似ていたという。

この世にひとつ、と出会い続ける

現在デイデイのアトリエがあるのは松本市の浅間温泉街。ひと昔前は芸者さんたちの住む置屋だった古民家だ。
カゴバッグの作り手であるパートナーのyoshinoyashimachiさんと二人暮らしで、1階にそれぞれのアトリエ、2階が居住スペースとなっている。

デイデイの布は中井さんが一枚一枚描いているからこの世にひとつしかない。
誰か人と会って友達になるような、「出会い」を楽しんで手に取ってもらえたらとほほ笑む。
「一方で量産している服も一枚一枚だれかが縫っているもの。どんなものでも大切なものになりうるし、どんなものにもそういう見方をしていきたいです。」

デイデイの服も「ずっと楽しく着てもらえる」ような色の組み合わせやデザインを目指している。


作品ができるまで

防寒対策のため部屋の中にテントを張っている。

基本は染めの部屋と縫製の部屋で分けているが、冬は縫製もテントの中でおこなう。
毎回模様替えをしながら作業しやすい配置を試行錯誤。

・日々メモを取る
散歩などをしていて見つけた瞬間色がキレイだった花びらや、おもしろい形の種など。「よく見るとかわいいなと思うものがある。」

摘んできたらそのまま押し花のようにしてノートに張り付ける。

・いつもの問屋さんからガーゼの仕入れ
生地を仕入れに通ううちに仲良くなり、「いつもの生地ね」と言ってもらえるようになった。

・洗いをかける
仕入れたガーゼは「生機(きばた)」と呼ばれ、糊が付いていてバリバリしているので、ランドリーで洗って糊を落とし柔らかくする。

・絵付けをする
染料で絵を描く。絵日記みたいな感じで書くことも。迷うこともある。「なにに加工するか、なにを描くかはあまり決めず感覚に任せたい。」

摘んできた植物などを参考に調合した「色カード」から3、4色組み合わせを決めて絵を描く。同じ調合をしてもまったく違う色になったりもする。
塗った時と乾いた時で色がまるで変わるので、目安として色カードが重要(描いている黒っぽい部分と、隣り合う青灰色の部分は同じ染料!)

・手作りロケットストーブで10分ほど蒸す
この工程によって、染料が生地に定着する。普段は換気扇のある台所で作業をおこなう。

生地を新聞紙、不織布で包んで両端をしばる。(キャンディみたいでかわいい。)
ロケットストーブの材料はホームセンターで調達した。一度に3、4本の生地を蒸すことができる。

・洗う
色移りの原因になるのでしっかりと洗って、ソーピング剤で煮込む。蛇口から水しか出ないので最初は冷たいが、たくさん動くのでからだはだんだんと暑くなってくる。この蒸す~洗うが特に大変で体力勝負。「気合と根性で作業しています。(笑)」

・干す
ガーゼは織り目の間が空いていて、空気が抜けるので乾きやすい。

・形にする
縫製ももちろん、一枚一枚がデイデイによるもの。
ずっと定番で使っている型紙のほかに、新しく型紙を作ることもある。


お洗濯の仕方

絵付けに使っている染料は大きく分けて2種類あり、それぞれで洗剤を変える。
〇化学染料のアイテム いつも使っている洗剤で大丈夫。漂白はNG。
〇植物染料のアイテム 中性洗剤で。弱アルカリ性などの洗剤を使うと色が変わってしまうことがある。こちらも漂白はNG。

以下は共通
デイデイが使用している綿麻のガーゼは、シルクやウール製のものとは違い、じゃぶじゃぶ洗って大丈夫。
定着させているとはいえ、少なからず色落ちはするので必ず白い物や淡いものとは分ける。できれば単品で手洗いがよい。
洗ったら脱水をかけて、干す。直射日光は色あせの原因になるので陰干しが望ましい。乾燥機はNG。

photo:yuki yokosawa

最近の活動の楽しみ

身の回りの観察(絵柄に直結したり、服の形に繋がったりする)
古いもの、古い服、古い柄(文様)などについて調べること
染める色の組み合わせを考えること
縫製など製作するときの工程の見直しをしたとき、「アップデートできた!」と感じられたこと


最近の活動以外の楽しみ

ポッドキャストでラジオを聴く。読書など。
物や作品の背景に付随する「どういう人だったのか」を知るのが好き。
見えているもの、見せているものはキレイに整えるけど、生活はそれだけではない。
その氷山の見えない部分が「濃い」と面白い。

いわおたまきさん、キムホノさんの陶芸と愛読書たち

デイデイ洋裁店instagram: https://www.instagram.com/deideijousaiten/

取材・編集 江刺里花、澤谷映