建築家と巡る城下町みずのタイムトラベル

歩いてみよう!源池編

まちや建物の専門家である建築家の案内で松本を歩いて楽しむ「建築家とめぐる城下町みずのタイムトラベル」。松本の町や、日々の暮らしを湧水や工芸・クラフトとともに楽しむ提案をする「みずみずしい日常」のプログラムの一つです。
湧水や歴史、クラフトに着目して巡る3つのコースをYouTubeで紹介しています。(マップと共にまとめたサイトはこちらからご覧ください)。案内役の建築家の皆さんの計り知れない情熱が込められた動画は総計7時間以上(!)。もちろんじっくり巡ってもいいのですが、まずは気軽に歩いてほしい…ということで初級編として、コースの一部を歩いてレポートします。

歩いてみよう!源池編

今回ナビゲートしてくれるのは、ガラス作家の田中恭子さん。「あづみのガラス工房」(安曇野市)に2006年から5年間所属。その間、池上邸の蔵で湧き水を使って抽出したコーヒーを楽しめる「池上喫水社」の水出しコーヒーの装置を手掛けるなど、初期から「工芸の五月」に携わっています。一度は安曇野を離れたものの、2017年1月に松本市内に工房「RITOGLASS(リトグラス)」をオープンしました。

「前々から知っている場所もあるけど、のんびり歩くのは久しぶり」という田中さん。普段行き来する道も、視点を変えることで新たな発見があるかもしれません。3つのコースの中から今回選んだのは「源池編」です。

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松本市美術館を出発して、源池周辺を巡って、中町の蔵シック館へ向かうルートを今回は「逆打ち」。蔵シック館を出発して、松本市美術館まで歩きます。

12中町・蔵シック館

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中町通りのシンボル的な存在、蔵シック館。手前に広いスペースがあることで、一休みできる空間になっています。「観光の入口としてこういう場所があるのはいいですね。『自由にどうぞ』と言ってもらえているような気がします」と田中さん。

動画ポイント

蔵シック館は、ここから一つ東側の通り、宮村町にあった大禮酒造の主屋、土蔵、離れの3棟を移築したもの。奥の離れはきれいに保存されていてほぼ当時のまま、主屋と土蔵は中を活用できるように改装しています。昔のままに復元した土間の一部の吹き抜けの梁組や座敷なども見どころです。
⇒動画はこちら

「まち歩きのお供に」と田中さんが取り出したのは「みずさじ」です。「工芸の五月」の企画として「みずみずしい日常」を始めたときに、現代の水場を楽しむ道具として6人のクラフト作家が制作したもの。湧水をすくって味わいます。

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「子どもと一緒に来たときは、よく井戸で遊ばせていました。井戸、前よりもきれいになりましたね。こうして見ると馴染んでしまって、前がどういう感じだったかもう思い出せなくなっていますが(笑)」。

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隣にある茶房は、明治に建てられた蔵を活用しています。店内は松本民芸家具が並び、落ち着いた雰囲気。なまこ壁に洋風な窓が付いているのもかわいらしいです。

ここから、ちょっとルートは外れますが、蔵シック館の横の通りを曲がって南へ歩いてみます。

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一つ目の角にはNHK「ブラタモリ」でも登場した、ニジマスがいる水路があります。いつの間にか人気の観光スポットになっていました。

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ゆっくりと通りを歩くと目に留まるものがたくさん見つかります。歴史を感じる看板や、消火用と書かれた赤いバケツ。気になるポイントは、動画でも登場していることが多いので、チェックするのがお勧めです。

9源池の井戸

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「前に住んでいた家から、源池の井戸に水を汲みに来ていました。ポリタンクを自転車に載せて2日に1回くらい。寒い日の湯気の中での水汲みが思い出深くて」と田中さん。当時と比べると、置いてあるひしゃくが新しくなった気がするとのこと。「ちゃんと手入れが良き届いていて、いいなと感じます。『井戸を守る会』の有志の皆さんのおかげですね」。

動画ポイント

環境省が選定した「平成の名水百選」にも選ばれている源池の井戸。湧き出る水はなんと毎分約230リットル=浴槽1杯分(!)です。
⇒動画はこちら

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地元の人たちにとって、井戸は日常にある風景。何気ない言葉を交わすのも心地よいひとときです。この日も水を汲みに来ていたお父さんと子どもたちと遭遇しました。

4池上邸

ここからルート通りに源池の井戸の横の路地を歩いて、いったん大橋通りへ出て、池上邸へ向かいます。

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大橋通りは交通量が多いので、特に子どもと一緒に歩くときは気が張るという田中さん。「池上邸に向う道に入ると少しほっとします」と話します。

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「池上喫水社」の会場でもある池上邸。水出しコーヒーの装置を手掛けたのは、当時、工芸の五月の企画室の室長だった陶芸家・田中一光さんから声を掛けられたことがきっかけだったそうです。「そのときは正直、全くイメージできなかったんですが、面白そうだからやってみたいという気持ちが勝りました。最初は誰も着地点は見えてなかったんじゃないかな…(笑)。あの頃だったからできたのかも」。

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3源地の水源地井戸

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路地を歩いて到着したのは、源池の水源地井戸。その名の通り、先ほどの源池の井戸の水源となっている井戸です。こんこんと湧いていますが、いったいどこからこの水は来ているのでしょう…?

動画ポイント

湧き出している水はいったいどこから来ているのかを地形から考察。松本の水道事情なども紹介しています。
⇒動画はこちら

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松本市美術館の裏には、「みずみずしい日常」で作ったみずくちが残っています。これは田中一光さんが作ったもの。「もう10年以上、この水場のある風景の一部となっていることに何かしみじみします」。

さて、歩いた後はお腹がすきました。今回のまち歩きの終点は大橋通りにある「そば処 種村」へ。店主の種村孝一さんは、「みずみずしい日常」の企画「源池みずそばの会」で
中心的な役割を担い、町内の湧水を使ってそば打ちもしていただきました。

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「十割そば」の並と「八割そば」の天守閣(特盛り)!
そばは、木曽・開田高原産。まずは壺焼塩で、その後、「甘みつゆ」と「香りつゆ」の2種類のつゆでいただきます。

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松本で暮らし始めてから数カ月間、ここでアルバイトをしていたという田中さん。久しぶりの再会もあり、気持ちもお腹も満たされたまち歩きになったようです。

今日のコースはのんびり歩いて1時間ほど。ぜひ皆さんも、動画を見て、自分なりのお散歩ルートを楽しんでみてください。

文・山口敦子
写真・伊久間佑介

「みずみずしい日常」について詳しくはこちら。
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