さ~、組み立ての開始です
毎年クラフトフェアまつもとの会場となる「あがたの森公園」。5月のみずみずしい緑の景色とは一転、この日(11月初旬)は暖色鮮やかに彩られ、キラキラしていました。その輝く美しい広場に、続々と運び込まれる木や鉄の部材。これぞ「どこでも工芸空間」プロジェクトの家具になるパーツたちなのでした。
まずはスツール
座面は小田さん&牧瀬さん、脚は波部さんが担当。その2パーツをねじ止めすれば、もう完成です。座面について小田さんは「厚みを決めるまでが大変だったかな。持ち運びのしやすさや細い鉄とのバランスを考えつつ、割れにくい厚みを確保するにはどうするか……。それで、ギリギリの厚さをキープすると同時に、少しでも薄く見えるよう縁を斜めにカットしました」と話します。
「デザインを確定するまでは大変でしたが、それが決まって治具(ジグ)をつくってしまえば、後は数との戦いでした」と脚の制作を振り返る波部さん。フィニッシュとなるビス留め作業を、感慨深そうに手伝います。
*治具=パーツを固定する器具
当初は座面にいろいろな樹種を使うことも考えたものの、材の状態や細さ、乾燥具合などを総合的に考えた結果、クリ材のみに。というわけで木目美しいクリのスツール、すべて完成で~す。パチパチパチ。
テーブルと棚です
さてテーブル。天板はスツールと同じクリ材です。使うほど木目が主張するクリの良さを最大限引き出すため、「少し色が入った方が木目がさらに映える(小田さん)」からと、着色オイル仕上げに(他の家具も同様)。折り畳み可能な脚は金澤さんが製作したのですが、このためだけに新しい溶接機を購入したのだとか。「他と比べて(鉄部分が)薄いので、それに合わせて新調しました。これから活用してかなきゃ」。
アウトドアで使いやすいようにと、天板と脚をマジックテープで固定する方式が取られているため、女性一人でも組み立ては簡単。
脚先を打ち込む作業はまるで、最後の儀式のよう。コンコンといい音が響きます。これまでの作業を振り返った牧瀬さんが「間伐材は幅が揃っていなかったり、使える部分が限られていたりするのでなかなか大変でした」とぽつり。特にテーブルの天板のように、面積が必要な部分には苦労したそうで、「こんなに良い感じになるなんて嬉しい」と感無量の様子。
次は棚。これも簡単に組み立てられる仕組みですが、安定・安全のためビス留めの必要があるので、少し手間がかかります。
というわけでテーブルに比べると少し大変なので、2人で組み立てます。棚全体を寝かせると、ビス留めしやすいそう。
次々完成。ベンチ&看板
ベンチの脚は一見するとスツールと同じですが、天板を挟み込むように2カ所突き出たツノが、アクセントになってます。完成したベンチに、強度を確かめるべく3人で座ってみました。うん。いい感じです。
そして最後が、プロジェクトの象徴的存在である看板の組み立て。といってもフックにかけるだけなんですけどね……。
看板本体を担当した寺下さんは「鉄のフレームにどう収まるか、最後まで心配でした」と言いますが、うまく収まって「安心したし嬉しい」とほっ。今回のアイテムの中で看板は最も細工が施されており、本体にはクルミ、文字の「の」には黒檀、それ以外はローズウッド、そしてカバン部分にはカリンを使っていたりと、材の組み合わせで控えめな存在感を出しています。その絶妙な加減については「鉄の黒い色とのバランスを考えた」と寺下さん。彫りの加減などもアイテム全体との釣り合いを考慮して最小限にしたそうです。
フレーム部分は金澤さんが担いましたが、「どう折りたたむかでだいぶ悩みましたね」。挙句、ホームセンターでいろいろな看板を見てヒントを得たり、パーツを組んで研究したりと時間をかけて試行錯誤したそう。その甲斐あって、細部まで美しく仕上がっています。
全部組み立て終わって
すべての家具が完成したので、一カ所に運んで”空間”をつくってみました。周りの紅葉を取り込んだ季節感たっぷりの空間。家具が並んでいるけれど部屋ではない。部屋ではないけれど、適度に区切られて心地よいプライベート感もある不思議な場……。あー、これこれ、これを目指していたんだよ、と一同が無言で頷いちゃうような、贅沢な空間がそこにはありました。せっかくなので製作を担った作家全員で記念撮影。ぱちり。
さてさて。いよいよ連載の最後となる次の記事では、公園を出て街へGO。さあ、次はどんな工芸空間ができますやら……?