小原実さんは子どもの頃からものづくりが好きだったこともあり、高校卒業後は岐阜県高山村の「森林たくみ塾」で木工を学び、「柏木工」に就職しました。技能五輪出場のため技を磨きつつ、椅子の設計に携わって4年。世の中が見たいという思いもあり、青年海外協力隊に応募して木工製作指導者としてガーナへ赴任しました。
職人がしのぎを削る厳しい環境から一転、停電が多く加工機械が止まってしまうこともしょっちゅう。おかげで「ガツガツしなくていいと思えるようになった」と小原さんは言います。
2年後に帰国し、いったんは埼玉県の木工会社に就職しますが、結婚して子どもが生まれたこともあり、田舎暮らしをするために安曇野へ移住しました。安曇野で木工が盛んなこと、「クラフトフェアまつもと」が開催されていることは移住後に知り、木工に携わる先輩に紹介されて「子ども椅子展」に参加するようになりました。
「子どもの椅子は難しい。思いもよらない動きをしますから」と小原さん。堅牢さ、座りやすさ、そして美しさ。加えて大事にしたのが安全であること。後ろ脚の角度を工夫し、万一、座面に立ち上がっても倒れることはありません。また、使い続けるうちにどうしても緩みが生じる座面と椅子の接合部は、締め直すことができるようにネジで仕上げました。それは価格を抑えることにもつながっています。
「僕の椅子も選択肢のひとつになれば」。小原さんの謙虚な言葉は、「多様であることと、そこから選ぶ力」という、はぐくむ工芸が大切にしていることにつながります。
文・塚田結子
木工房かじつ
安曇野市穂高有明7379-100
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