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工芸の五月 ONLINEはぐくむ工芸・子ども椅子展

木工作家・指田哲生さん

工芸の五月の企画として2012年からはじまった「子ども椅子展」。
この企画の生みの親である木工作家の指田哲生さんを、松本市稲倉にあるご自宅兼工房に訪ねました。

はぐくむ工芸・子ども椅子展

松本市美術館にある中庭は、訪れた人がいっぺんで好きになるような素敵な場所です。ここに「工芸の五月」の企画として、はじめて子ども椅子を並べたのが2012年のこと。そもそも「子ども椅子展」は、木工作家の指田哲生さんらが「グレインノート」で催した「椅子展」にはじまります。

グレインノートは、指田さんほか「クラフトフェアまつもと」の創設メンバーでもある木工作家たちが1984年に中町に開店しました。ここで毎年「椅子展」を開催してきましたが、「なかには子ども用の椅子を作る人もいて、僕も作りはじめました」と指田さん。やがて、たくさんの子ども椅子が顔をそろえるようになりました。

  • はぐくむ工芸・子ども椅子展2021年の子ども椅子展の様子
  • はぐくむ工芸・子ども椅子展

ある日、撮影のため美術館の中庭に子ども椅子を並べると、「とってもいい感じだったんです」。かたわらに湧水がせせらぎ、芝生の緑が広がる心地良さ。空の下の開放感と、適度に囲まれた安心感。子どもがはしゃぎ、大人も寝転がれるような(美術館らしく節度をもった)自由で大らかな雰囲気。

「ここに子どもの椅子を展示しよう」。そしてはじまった「子ども椅子展」は、たいした宣伝をせずとも、椅子を並べると子どもが自然と集まってきました。「これはいいぞ」と継続が決まり、「はぐくむ工芸」という名を冠した工芸の五月の企画に発展しました。

はぐくむ工芸・子ども椅子展

「それまで子ども専用の家具はあまり存在しませんでした。どちらかというと親の都合に合わせるため、たとえば同じ食卓につくためのハイチェアとか、姿勢を正したり、行動を制限する矯正具のような椅子ならありました」と指田さんは言います。

「自分の椅子があると、自分の居場所ができる。子どもにとっては座ることより、そっちがうれしいのかもしれませんね」。子どもは好きな場所に椅子を運び、座って空想をふくらませ、椅子のまわりに自分の世界を広げます。子どもにちょうどいい大きさであることは、きっと大事なこと。

子ども椅子はサイズの割に脚が太く、重心は低くなります。「子どものために作ると自然とそうなるんですが、椅子のフォルムが子どもに似てきますね。脚は短くて、ずんぐりした感じ。大人の椅子とちがって、遊びの要素を加えたり、動物をモチーフにしてみたり、イメージはふくらみます」

  • はぐくむ工芸・子ども椅子展
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「小さいからといって造りが簡単なわけではなく、仕口は大人の椅子と変わりません。むしろ強度は必要になります。子どもの椅子の扱い方は、想像の範囲を超えていますから。投げたり、横倒しにして脚の方に座ってみたり。2階から落としたけど壊れなかったと、驚かれたこともありますよ」

手作りの木の椅子は頑丈です。たとえ壊れても作り手がなんとか直してくれます。「壊れた時点で捨てられず、修理して使い続けたいと思ってもらえるのは、作家にとってはうれしいこと。もちろん壊さず使ってもらえるに越したことはないのですが」

  • はぐくむ工芸・子ども椅子展
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素材が木であることが大切だと指田さんは言います。「プラスチックだと使い捨て、だけど木のものは残したいと思える。子どもが大きくなっても、木の椅子なら部屋にずっとあっても邪魔にならない。子どもでいる期間は短いけど、椅子が子どもの小さい頃を連想させます。木の椅子には記憶が宿る、それがいい」

はぐくむ工芸・子ども椅子展

松本市では、生後間もない赤ちゃんに手作りの木の「ファーストスプーン」を贈る子育て支援事業が行われています。これは「一生食べ物に困らないように」と願いを込めて銀のスプーンを贈るヨーロッパの風習に倣ったもの。また、北海道上川郡東川町では赤ちゃんに木の椅子を贈る事業が行われています。

はぐくむ工芸・子ども椅子展

「いつかは松本でも」と指田さんは考え、そして「子どもの誕生や歩き初めのお祝いとして、木の椅子が定着すれば」と思いをめぐらせます。五月人形やひな人形、鯉のぼりを飾る伝統的な風習は、生活習慣や住環境の変化に応じて失われつつあります。木の椅子なら「触っちゃダメ」と怒ることなく、本当の意味で子どもへの贈り物にしてやれます。

「木で全部できるということを、みんなに知ってもらいたい。自然は失われつつあるけど、少しでも身の回りに木のものが残っていくように」そう指田さんは言います。

  • はぐくむ工芸・子ども椅子展
  • はぐくむ工芸・子ども椅子展指田さんの工房は森の中。まるで絵本に出てくるようなお家でした。

自然のものを材料にして、いろんなものが作れること。壊れても直せること。そして使い続けるうちに、かけがえのないものになること。そうしたことを木の椅子を通して子どもたちに伝えたい。それは「はぐくむ工芸」の願いでもあります。

はぐくむ工芸・子ども椅子展

さて、2020年に続き2021年も通常開催は中止となった「子ども椅子展」ですが、改修工事のため長期休館中の松本市美術館の再開に合わせ、2022年には美術館中庭を会場に開催する予定です。準備を進めてまいりますので、それまでどうぞお待ちください。「待てない!」という方は、子ども椅子カタログページへどうぞ。

指田哲生さんの子ども椅子はこちらから。

文・塚田結子

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