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工房からのおたより

どこでも工芸空間 vol.3

これまで2回の記事でお伝えしてきた「どこでも工芸空間」プロジェクト。コンセプトからアイテム決定、試作品作りまで順調に歩みを重ねて今、具体的なアイテムの製作がズンズン進んでいます。そこでこの回では、若手作家のみなさんに物作りの様子をお伝えいただくことに。木工の牧瀬福次郎さんには日記風に、鉄工の波部奈央さんにはスナップ風に日々を切り取っていただきました。
ところで「どこでも工芸空間」のための家具システムで、気になるアイテムの一つが「看板」。一般的に”家具”というカテゴリーには入って来なさそうな看板という存在が、プロジェクトを特徴づける要となっています。その制作を担当するのが木工家の寺下健太さん。この連載できちんと登場するのは初ということもあり、日々の記録に加え、今回のプロジェクトへの想いも寄せてもらいました。

牧瀬福次郎(まきせ ふくじろう)
木工をはじめて今年で5年目。長野県朝日村で30年以上制作を続ける「牧瀬家具製作所」で、主に広葉樹の無垢材を使った家具を制作する日々を送る。今回のプロジェクト参加について「家具のある空間が道に広がってたら、みんながおもしろがって興味をもってくれるんじゃないかと楽しみです」。
牧瀬家具製作所 https://makisekagu.com

10月5日

機械などでの作業が始まる前に、鉋(かんな)の調整をしました。テーブルなど木の家具が季節によって反ったりするのと同じで、実は鉋も季節の変化で動いて使えなくなってしまいます。そのため使いたい時すぐに使えるよう、鉋の台の形を調整したり刃を研いだりします。

10月11日

ベンチ、テーブル、棚板の木取(きど)りをしました。
*木取り:木材から必要な寸法の材を切り取ること

10月13日

テーブルの天板です。木取りした材料をどう合わせるか決めてから、ボンドを塗って接ぎ合わせました。

10月14日

テーブルの天板の調整を続けています。鉋でただ削るだけ。でも木工のなかでは一番好きな作業です。

10月16日

なぜあがっていたのかはわからないけれど、遠くに見えた花火。「コロナで大変な時期だから」と勝手に解釈し、自分も頑張ろうと思いました。

10月18日

朝日村で採れた松茸です。毎年恒例なのですが、この時期は仕事をする前に山へ入って取ってきます。

10月20日

鉋で棚の表面を削り、面取りをします。スツール座面はサンダーで面取りしました。

10月23日

工房はかなり寒いので、薪ストーブに火を入れました。近所であけびを発見。

波部奈央(はべ なお)
東京都出身。長野県大町市の「信濃大町地域おこし協力隊」のメンバーとして活動しており、週2日ほど金澤図工で鉄工の作業&修行中。オンラインを主な発表の場とするこの企画について、「家族や友人のほとんどが長野県外なので、このプロジェクトを通じて、どんなことをやっているのか知らせることができて嬉しいです。制作物だけでなく松本周辺の物作りの現場の様子も、クラフトに興味のある人たちに伝わると良いなと思っています」と話す。

初めて1人で作った薪ストーブ

金澤図工では主に薪ストーブ制作の修行中です。それまではパーツを作ったり、部分的にお手伝いしていたので、全部手掛けたこのストーブは、思い出の品になりました。

金澤さん作。ボール盤のハンドル延長バー(?)

男性(金澤さん)の力で締めた後は固くて、「ハンドルが回せない」と言っていたらわざわざ作ってくれました。金澤さんは、自分が使いやすいよう・作りやすいように自力でアレンジする技も教えてくれます。

座面をセットする前しか見られないスタッキングの様子

今回のプロジェクト用に、コツコツとスツールの脚をつくっています。金属は丈夫な素材なので、ある程度細いシルエットのものも作れます。それらが重なったときの模様や影が好きで、たくさん撮りました。

コロナ禍での遊び

旅行、ライブ、観劇などが好きなのですが、今年は旅行や帰省は諦めて長野県内で夏を楽しみました。木崎湖でカヌーやSUPをしたり、あがたの森公園でピクニックをしたり。

りんご音楽祭

松本市で行われた野外音楽イベントに参加。この日は久しぶりに生の音楽を楽しみました。

コロナ禍で自分用につくったもの

マスクを掛けるためのペンダントみたいなものと、ランプシェードを作りました。コロナ禍でzoomなどをする機会があり、私の画面だけ暗いなと気づいたので、電球を買ってシェードは自作しました(今まであまり自宅にいる時間がなかったため、小さい電気しか持っていなかった)。どちらも真鍮を叩いたり削ったりして形にしています。

平日の職場(コワーキングスペース)

物作りとは別に、大町市の地域おこし協力隊として、施設の管理人のような仕事をしています。

寺下健太(てらした けんた)
松本市出身。工房「KEN/NEL」で、手彫りの人形やオブジェ、彫りの風合いを活かした木工品などを手がける。2006年から「クラフトフェアまつもと」に出展し、09年からはそのダイレクトメールに作品が使われている。この企画のローンチ会議では「メンバーの中で一番、完成図をイメージできていないかも」と頭を抱えていたが……さて現在は?

ラフ(下書き)

看板につけるレリーフのデザインを、ラフを描きながら考えます。この時間が一番大変でもあり、楽しくもあります。『どこでも工芸空間』なので、街や旅行をテーマにイメージを広げていきます。

レイアウト

看板の文字やレリーフのバランスを見ています。看板本体にはクルミの木を使用。着色せず木の色を組み合わせて作るので、それぞれのパーツの相性を見ながら樹木を選んでいきます。

シンボルマーク

「工芸の五月」のシンボルマーク部分を作っています。 もとのマークは水色なので、どんな木の色で表現するのかが悩みどころです。

作業場の植物たち

ユーカリ、オリーブ、観葉植物などなど。成長したり、いつの間にか鉢が増えてしまって、どんどん置き場がなくなってきました。制作中の潤いなのですが、余裕がなくなってくると水やりがおろそかになってしまいます。しおれてくると慌てて水をやるので、自分の状態を見るバロメーターにもなっています。

看板の文字

糸鋸で切り出すので、作業中は粉まみれで全身が真っ黒になっています。

文字の彫り

切り出した文字部品の表面を彫っています。材種は黒檀。黒い色や硬い質感が特徴の木なので、スツールや棚に使われている鉄のフレームを意識して選びました。

彫刻刀

ずっと使っていると切れ味が落ちて仕上がりや作業時間に影響するので、小まめな研ぎが欠かせません。

From 寺下:今回のプロジェクトに寄せて

看板を作るにあたってモチーフを考えています。
「どこでも工芸空間」というプロジェクト名のとおり、この企画で作られた椅子、テーブルや棚などが、街へと繰り出て行くことが特徴だと思います。
ここで作った家具システムが今後、作家の作品展示にも使われるということなので、街なかでの展示や訪ねて行く街、旅行をイメージし、看板を制作しています。
今年は例年のようにはイベントごとが開催が出来なかったことで、「工芸の五月」や「クラフトフェアまつもと」を振り返って考えることが多くありました。そんななか、毎年発行されている「工芸の五月」の冊子、第一号の表紙が目に留まりました。写っているのは革の旅行カバンです。ちょうど「工芸の五月」と「どこでも工芸空間」のイメージが一致したと感じ、看板のモチーフに旅行カバンを選びました。

木工・小田さん

スツール座面の接着と切り抜きの作業を進めています。

鉄工・金澤さん

プロジェクト用家具である棚のフレーム部分を製作中。

さて、こうして鋭意製作が進んでいる家具システム。連載の次の回では、これまで別々に作られていた木工・鉄工のパーツが組み合わされ、いよいよ家具が完成に至るところをお伝えできると思います。お楽しみに。

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